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横浜地方裁判所 昭和39年(行ウ)3号 判決

原告 奥津八郎

被告 小田原税務署長

主文

1、被告が原告の所得税につき昭和三六年一二月二〇日付でなした

(一)  昭和三三年分の更正決定中、総所得金七八万二、八一一円のうちの雑所得金六二万二、五〇〇円のうち、金五一万八、七五〇円を超える部分ならびにこれに対応する課税所得の部分、所得税の部分および過少申告加算税の部分

(二)  同三四年分の更正決定中、総所得金四二万六、五四二円のうちの雑所得金二四万一、一三五円のうち金二〇万六、一三五円を超える部分ならびにこれに対応する課税所得の部分、所得税の部分および過少申告加算税の部分はいずれもこれを取消す。

2、原告その余の請求を棄却する。

3、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の求める裁判

1、被告が原告に対し、昭和三六年一二月二〇日付をもつて原告の所得税につきなした左記決定または更正決定を取消す。

(一) 昭和三二年分(ただし、昭和三八年六月一日付審査決定により一部取消されたもの)

総所得   金三八万二、二八〇円

課税所得  金二九万四、七〇〇円

所得税    金五万二、五八〇円

無申告加算税 金一万三、〇〇〇円

(二) 昭和三三年分

総所得   金七八万二、八一一円

(右のうち不動産所得金六万二、〇二〇円、農業所得金九万八、二九一円の合計金一六万三一一円を超える部分)

雑所得   金六二万二、五〇〇円

課税所得  金六六万二、八〇〇円

(右のうち金四万三〇〇円を超える部分)

所得税   金一二万七、五〇〇円

(右のうち金四万三〇〇円を超える部分に対する税額部分)

過少申告加算税  金六、一〇〇円

(三) 昭和三四年分

総所得   金四二万六、五四二円

(右のうち不動産所得金九万一六七円、農業所得金九万五、二四〇円の合計金一八万五、四〇七円を超える部分)

雑所得   金二四万一、一三五円

課税所得  金三三万一、〇〇〇円

(右のうち金八万九、八〇〇円を超える部分)

所得税    金五万一、五〇〇円

(右のうち金八万九、八〇〇円を超える部分に対する税額部分)

過少申告加算税  金二、一〇〇円

(四) 昭和三五年分

総所得   金三〇万六、四〇〇円

(右のうち不動産所得金九万四、七九五円、農業所得金一一万五、八八〇円の合計金二一万六七五円を超える部分)

雑所得    金九万五、七二五円

課税所得  金二一万二、七〇〇円

(右のうち金一一万七、〇〇〇円を超える部分)

所得税    金二万七、〇〇〇円

(右のうち金一一万七、〇〇〇円を超える部分に対する税額部分)

過少申告加算税    金七五〇円

2、訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の求める裁判

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求原因

(一)  原告は被告に対し

1、昭和三二年分は所得がないものとして申告せず

2、昭和三四年三月七日、昭和三三年分の不動産所得金六万二、〇二〇円、農業所得金九万八、二九一円の合計金一六万三一一円を総所得、課税所得金四万三〇〇円として

3、昭和三六年一二月二四日、昭和三四年分の不動産所得金九万一六七円、農業所得金九万五、二四〇円の合計金一八万五、四〇七円を総所得、課税所得金八万九、八〇〇円として

4、同日、昭和三五年分の不動産所得金九万四、七九五円、農業所得金一一万五、八八〇円の合計金二一万六七五円を総所得、課税所得金一一万七、〇〇〇円として

それぞれ確定申告をした。

(二)  しかるに被告は昭和三六年一二月二〇日付で

1、昭和三二年分所得税につき、農業所得金一二万四七〇円、雑所得金八一万円の合計金九三万四七〇円を総所得とし、所得税金二〇万九〇〇円、無申告加算税金五万円の合計金二五万九〇〇円とする決定

2、同三三年分所得税につき、不動産所得金六万二、〇二〇円、農業所得金九万八、二九一円、雑所得金六二万二、五〇〇円の合計金七八万二、八一一円を総所得とし所得税金一二万二、五〇〇円、過少申告加算税金六、一〇〇円の合計金一二万八、六〇〇円とする更正決定

3、同三四年分所得税につき、不動産所得金九万一六七円、農業所得金九万五、二四〇円、雑所得金二四万一、一三五円の合計金四二万六、五四二円を総所得とし、所得税金四万六、五〇〇円、過少申告加算税金二、一〇〇円の合計金四万八、六〇〇円とする更正決定

4、同三五年分所得税につき不動産所得金九万四、七九五円、農業所得金一一万五、八八〇円、雑所得金九万五、七二五円の合計金三〇万六、四〇〇円を総所得とし、所得税金二万二、〇〇〇円、過少申告加算税金一、一〇〇円の合計金二万三、一〇〇円とする更正決定

をした。

原告の前記所得申告額からは右のような税額とはならないから原告は昭和三七年一月一六日被告に再調査の請求をしたが、同年四月一四日付をもつてこれを棄却されたので、さらに右再調査決定に対し昭和三七年五月八日東京国税局長に審査請求をしたところ、同局長は昭和三八年六月一日付で昭和三二年分所得税につき原決定を一部取消し、農業所得金一一万二、二八〇円、雑所得金二七万円の合計金三八万二、二八〇円を総所得とし、所得税金五万二、五八〇円、無申告加算税金一万三、〇〇〇円とし、昭和三三年分ないし同三五年分所得税に対する審査請求はこれを棄却する旨の決定をした。

(三)  しかしながら、右更正決定(ただし、昭和三二年分については審査決定により維持された部分)中原告の確定申告にかかる所得税額をそれぞれ超過する所得税部分ならびに昭和三二年分所得税の全額はいずれもその税額算出の基礎となるべき各該当年分の所得金額の認定を誤つた違法のものであるからこれが取得を求めるため本訴に及んだ次第である。

二、被告の答弁

(一)  請求原因第(一)項の事実は認める。

(二)  同第(二)項の事実中被告が原告に対し昭和三二年分ないし同三五年分所得税額の更正決定をしたことは認める。ただし更正決定の内容およびその後の経過は別紙一記載のとおりである。

(三)  同第(三)項は争う。被告がした昭和三二年分ないし同三五年分の各所得税の更正決定(ただし昭和三二年分については訴外東京国税局長の審査決定により維持された部分)はいずれも適法である。本件各年分における課税処分の経緯ならびに税額算出の根拠は別紙一記載のとおりである。

(四)  本件各年分における雑所得について

1、原告は昭和三一年九月三〇日訴外奥津ミシン工業株式会社との間にそれまで同訴外会社に貸付けていた金二二五万円を消費貸借の目的として弁済期同三三年三月末日、利息年一割二分、遅延損害金年三割六分とし、利息の支払を三カ月延滞したときは期限を失う旨の特約付の準消費貸借契約を締結した。

2、そこで、昭和三二年分の確定した利息収入は金二七万円である。

2,250,000円×0.12=270,000円

この外遅延損害金収入があるが特に加算していない。

3、右貸金二二五万円につき昭和三三年八月二日、金一二五万円が弁済されたので同年分の確定した遅延損害金収入は金六二万二、五〇〇円である。

2,250,000円×0.36×7/12=472,500円…〈1〉

(2,250,000円-1,250,000円)×0.36×5/12=150,000円…〈2〉

472,500円+150,000円=622,500円…〈1〉+〈2〉

4、昭和三四年八月一一日原告は前記訴外会社との間に元金一四九万四、五〇〇円、弁済期同三九年九月末日、利息年五分、遅延損害金年一割二分、毎年三〇万円宛分割弁済し、分割弁済金を一年怠つたときは期限の利益を失う旨の特約付を内容とする準消費貸借契約を締結した。

そこで確定した昭和三四年分利息および遅延損害金収入は金二四万一、一三五円である。

1,000,000円×0.36×7/12=210,000円…〈1〉

1,494,500円×0.05×5/12=31,135円…〈2〉

210,000円+31,135円=241,135円…〈1〉+〈2〉

この外遅延損害金収入があるが特に加算しない。

5、昭和三五年八月まで前記約定に基づく弁済がなされなかつたので、同年分の確定した利息および遅延損害金収入は金一一万八、三一四円である。

1,494,500円×0.05×7/12=43,589円…〈1〉

1,494,500円×0.12×5/12=74,725円…〈2〉

43,589円+74,725円=118,314円…〈1〉+〈2〉

6、被告は以上の収入を右各年分の原告の雑所得とし、更正決定の基礎である所得額としたものである。

(五)  仮りに、前項の主張が認められないとしても、原告が取締役である訴外会社に(同会社は資本金四〇〇万円の法人税法第七条の二に該当する同族会社である。)金員を無利息で貸付けることは利息相当の得べかりし利益を放棄することになり、右行為計算を容認した場合には被告の所得税の負担を不当に減少させる結果になると認められるので、所得税法第六七条第一項により右行為計算を否認し、原告の所得税の総所得金額または税額を計算することができる。これを法人(訴外会社)側からいえば利息相当額の損害を個人に寄付したことになり、この場合の利息相当分の通常支払うべき利率はおおむね年一割(銀行金利相当)であるからこれを適用すると次のとおりである。

1、昭和三二年分 金二二万五、〇〇〇円

2,250,000円×0.1=225,000円

2、昭和三三年分 金一八万五、四一六円

2,250,000円×0.1×7/12=131,250円…〈1〉

(2,250,000円-1,250,000円+300,000円)×0.1×5/12=54,166円…〈2〉

131,250円+54,166円=185,416円…〈1〉+〈2〉

3、昭和三四年分 金七万六、六六六円

1,300,000円×0.1×7/12=76,666円

しかも同年分については昭和三四年八月一一日前記金二二五万円の残高金一三〇万円の弁済に代えて訴外会社所有にかかる神奈川県小田原市幸町一の五四番地の一二、宅地五〇坪九勺の譲渡を受けたと主張しているので当時残債務は金一三〇万円だつた。そして右宅地の時価は金二三〇万円相当(ちなみに右評価額は財団法人日本不動産研究所発行の全国市街地価格指数によると昭和三一年九月は三万八、三五三であり、昭和三四年九月は七万一、六六一〔昭和一一年九月を一〇〇とした指数〕である。したがつて指数割合は一八六・八パーセントであるのでこれを取得価額金一三〇万円に乗ずると金二四二万八、四〇〇円となり、ほぼ妥当な評価額と認められる。)である。このことは差額金一〇〇万円を右貸付金によつて取得したのであるから貸付金の利息相当額として雑所得に該当する。換言すれば右代物弁済を受けることによつて、実質的には貸付金の元利金相当額を清算的に取得したと解される。したがつて代物弁済を受けたことによる差額利得分は同年分の雑所得に加算されることになるので同年分の雑所得は金一四八万七、〇八二円である。

487,082円+1,000,000円=1,487,082円

さすれば、別紙一の二記載の各予備的主張金額欄の雑所得が存在することになるので、この金額を基礎とする各所得税額を第二次的(ただし、昭和三三年分および同三四年分につき)、第三次的(昭和三四年分につき)に主張する。

よつて、本件各更正決定は仮りに、第一次的主張の所得額が認められないとしても第二次、第三次の主張の範囲内では正当な課税処分である。

(六)  昭和三二年分農業所得について

原告はいわゆる白色申告者であるが、昭和三二年分農業所得について全く帳簿を備えずこれらに関する原始記録も保管してなく所得金額の実額計算を行うことは不可能であつた。そこで被告は南足柄郡農業委員会の耕作台帳等により原告の延耕作面積を確認し、これに昭和三二年分普通田畑反当り標準所得額を乗じ、いわゆる推計計算による方法で原告の所得額を認定した。その内訳は別紙二記載のとおりである。右農業所得算出上牛馬の飼料は必要経費として、現実に支出した金額または支出することの確定した金額であつて農業所得を得るために必要なものは本件のような推計課税を行うに当つてもいわゆる特別経費として控除すべきものであるが、原告は被告が課税の際の調査においてかかる特別経費の存在に関する証拠の提出を求めたにもかかわらずこれに応じなかつたものであつて牛馬の飼料は控除すべき支出がなされたとは認められなかつた。(ちなみに推計計算方法としての農業所得金額算定のために適用した普通田畑反当り所得標準は管内基準町村の中庸な農業所得者について各種作物の収穫量調査および収支にわたる実績調査を行いそれらの調査実績を基とし農林統計資料等を参考として作成したもので合理的なものである。)

三、被告の答弁に対する原告の主張

(一)  被告主張の税額算出の根拠中の本件各年分における雑所得は全くなく、昭和三二年分農業所得はその金額が相違する。

(二)  本件各年分における雑所得について

1、昭和三一年九月三〇日現在、原告が訴外奥津ミシン工業株式会社に対し金二五〇万円の貸金債権を有していたことは認めるが、原告が同訴外会社との間に原告主張のような準消費貸借契約を締結したとの点は否認する。前記金二五〇万円の貸借についても利息約定はなかつた。したがつて、昭和三二年ないし同三五年において利息および遅延損害金収入があつたという被告の主張はすべて争う。

2、被告の第二次、第三次の主張について

原告が被告主張の日時にその主張の不動産を訴外会社より金一三〇万円の弁済に代えて譲受けたことは認めるが、その余の点は争う。原告の訴外会社に対する無利息の貸金は原告の所得税負担を不当に減少させるものではない。

(三)  昭和三二年分農業所得について

原告がいわゆる白色申告者であること、昭和三二年分農業所得について帳簿を備えず、またこれらに関する原始記録も保管していなかつたこと、被告主張の各田畑の地力等級ならびに反当り標準所得が被告主張のとおりであることはいずれも認めるが、別紙二の田畑のうち(5)狩野和泉窪八四六、畑二三歩、同(6)狩野南畑一一一四~二、畑四畝〇三歩、同(8)同所一一一三~二、畑一畝一一歩、同(9)同所一一一六、畑四畝一六歩、同(10)狩野朝日一五五八、畑五畝〇歩については原告は所有も小作もせず、同(1)狩野中河原七四、田九畝一九歩の実面積は六畝六歩、同(12)田裏作一反八畝歩の実面積は一反歩であるから被告算出の所得金額は誤まつている。また、原告は被告から課税調査の際特別経費の存在に関する証拠の提出を求められたことはないから牛馬の飼料金四、八〇〇円は必要経費として農業所得より控除さるべきである。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

一、請求原因第一項の事実については当事者間に争いがなく成立につきいずれも争いのない甲第一ないし第三号証の各一ないし四によれば、被告が原告に対し昭和三六年一二月二〇日付で

1、昭和三二年分所得税につき、総所得を金九三万四七〇円、所得税を金二〇万九〇〇円、無申告加算税を金五万円

2、同三三年分所得税につき、総所得を金七八万二、八一一円、所得税を金一二万七、五〇〇円、過少申告加算税を金六、一〇〇円

3、同三四年分所得税につき、総所得を金四二万六、五四二円、所得税を金五万一、五〇〇円、過少申告加算税を金二、一〇〇円

4、同三五年分所得税につき、総所得を金三〇万六、四〇〇円、所得税を金二万七、〇〇〇円、過少申告加算税を金七五〇円

とする旨更正決定をしたことが明らかである。

そして右更正決定に対し、原告が昭和三七年一月一六日被告に再調査の請求をしたが同年四月一日請求を棄却され、さらに同年五月八日東京国税局長に対し審査請求をしたところ、昭和三二年分所得税については原決定の一部を取消し、総所得を金三八万二、二八〇円、所得税を金五万二、五八〇円過少申告加算税を金一万三、〇〇〇円としたが、昭和三三年分ないし同三五年分の所得税については審査請求を棄却する旨の裁決をしたことは当事者間に争いのないところである。

二、被告は昭和三二年ないし同三五年分の各所得税額の更正決定(ただし昭和三二年分についてはこれに対し東京国税局長がした審査決定により維持された部分)はいずれも適法であると主張するのに対し原告は、右主張を争いその理由として、本件各年分における雑所得は全くなく、昭和三二年分農業所得はその金額が相違すると主張する。

(一)  そこで、まず、昭和三二年ないし同三五年の各年分の雑所得について検討する。

成立に争いのない甲第四ないし六号証および証人市川敏雄の証言により成立の認められる乙第五号証の二ないし四ならびに右市川証人および証人夏刈正男の各証言を総合すると被告は昭和三四年暮ないし同三五年初めころ訴外奥津ミシン工業株式会社の滞納税金の徴収事務に当たつていたところ、同会社がその所有にかかる小田原市幸町一の五四番地の一二宅地五〇坪九勺を同会社代表取締役奥津利男の父である原告に対して時価に比し著しい低額である金一三〇万円で醸渡していることを発見して、原告について第二次(代理)納税義務を課したうえ、原告所有名義の同番地所在の家屋を差押えたところ、原告は被告に対し前記奥津利男と連名で、同年三月一〇日右差押処分について再調査請求(乙第五号証の二)、債務弁済契約証書(同号証の三)、精算書(同号証の四)等を訴外会社との貸借関係を明確にする趣旨のもとに添付書類として提出したこと、そして、右各書類により、

(1)  原告は、昭和三一年九月三〇日訴外奥津ミシン工業株式会社との間にそれまで同会社に貸していた金二二五万円を消費貸借の目的とし、弁済期限同三三年三月末日、利息年一割二分、遅延損害金年三割六分とし、利息の支払を三ケ月延滞したときは期限の利益を失う旨の特約付の準消費貸借契約を締結したが利息の支払は全く行われていないこと、

(2)  右貸金二二五万円につき昭和三三年八月二日、金一二五万円が弁済されたこと、

(3)  昭和三四年八月一一日原告は、前記会社との間に元金一四九万四、五〇〇円、弁済期同三九年九月末日、利息年五分、遅延損害金年一割二分、毎年金三〇万円宛分割弁済し、分割弁済を怠つたときは期限の利益を失う旨の特約付を内容とする準消費貸借契約を締結したが利息の支払は全く行われていないこと、

(4)  昭和三五年八月まで右約定にもとづく弁済がなされなかつたこと、

右各事実が判明したこと、

以上の事実が認められる。証人奥津利男は原告が前記差押処分について再調査請求の際の添付書類(乙第五号証の二ないし四)は同証人が原告に無断で作成して提出したものでその内容も虚偽のものである旨証言するが右証言部分は容易く信用しがたく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。そこで以上認定の事実に基づいて、本件各年分の利息金額および遅延損害金収入額を計算すると、

(1)  昭和三二年分の利息収入金は金二七万円、

2,250,000円×0.12=270,000円

(2)  昭和三三年分の遅延損害金収入は金五一万八、七五〇円、

2,250,000円×0.3×7/12=393,750円…〈1〉

(2,250,000円-1,250,000円)×0.3×5/12=125,000円…〈2〉

393,750円+125,000円=518,750円…〈1〉+〈2〉

(3)  昭和三四年分の利息および遅延損害金収入は金二〇万六、一三五円、

1,000,000円×0.3×7/12=175,000円…〈1〉

(昭和31年9月30日準消費貸借の7月までの残金に対する遅延損害金)

1,494,500円×0.05×5/12=31,135円…〈2〉

175,000円+31,135円=206,135円…〈1〉+〈2〉

(4)  昭和三五年分の利息および遅延損害金収入は金一一万八、三一四円、

1,494,500円×0.05×7/12=43,589円…〈1〉

1,494,500円×0.12×5/12=74,725円…〈2〉

43,589円+74,725円=118,314円…〈1〉+〈2〉

となることが明らかである。

なお、被告は昭和三三年分および同三四年分の遅延損害金の算出につき年三割六分の約定利率を乗じているが、利息制限法所定の利率を超過する損害金の定めをしても右超過部分は無効であるから、債務者においてとくに右超過部分を支払う意思能力を有する場合等特段の事情の存する場合以外は右約定をしただけでは右超過部分の約定損害金の支払があつた場合と同視することを得ないものといわざるを得ない。かかる場合右約定利率を超過する部分の損害については未だ所得が確定したとみるべきではないと解する。

ところで被告は昭和三二年度は二七万円(昭和三八年六月一日付東京国税局長の審査決定により認定した額)、昭和三三年度は六二万二、五〇〇円、昭和三四年度は二四万一、一三五円、昭和三五年度は九万五、七二五円の各雑所得収入があつたとして、それぞれ係争各年分の総所得に含めて決定あるいは更正決定しているところこれを前記係争各年分の雑所得金額と比較すると原告は、昭和三二年度においては決定で認定したと同額の、昭和三五年度においては更正決定の認定金額を金二万二、五八九円だけ超過する額の各雑所得のあつたことが明らかであるが、昭和三三、三四両年度においては更正決定の認定金額よりそれぞれ一〇万三、七五〇円(昭和三三年度)、三万五、〇〇〇円(昭和三四年度)少ない各雑所得しかなかつたことが認められる。

(二)  次に、昭和三二年分農業所得について検討する。

1、成立に争いのない甲第一号証の一および甲第三号証の一によれば被告は原告には昭和三二年分農業所得として一二万四七〇円あつたことを認定したがその後東京国税局長の審査決定により一部減額されて一一万二、二八〇円と認定されていることが認められる。

2、思うに、課税標準となる所得金額を算定するためには原則としていわゆる収支計算の方法によるべきことは勿論であるが、その計算の基礎となる資料が存在しないか或いは不十分の場合には推計計算の方法によつて所得を算定しうることは旧所得税法四五条三項によつて明らかである。

ところで、原告がいわゆる白色申告者であつて昭和三二年分農業所得について帳簿を備えず、またこれに関する原始記録も保管していなかつたことは当事者間に争いがないから原告の所得についてこれを収支計算の方法によつて把握することは到底不可能であつたというべく、当該年度の所得につき推計計算の方法によつて算定されてもやむを得ないものと考える。

3、そして、成立に争いのない乙第三号証、同第八号証の一ないし四および前記証人市川敏雄の証言によれば原告は別紙二記載(1)ないし(12)の田畑を耕作したことが推認でき、右田畑の地力、等級ならびに反当り所得が同表記載のとおりであることは原告も認めるところであるからこれを計算すると原告の昭和三二年分の農業所得は合計金一一万二、二八〇円であると認めるのが相当である。

原告は別紙二記載(5)(6)(8)ないし(10)の畑は所有も耕作もしていないし、同(1)(12)の田については面積が相違していると主張するが、この点に関する甲第一五号証の一、二および証人奥津利男の証言は信を措きがたく、他に右認定を左右するに足る証拠はない、また原告は牛馬の飼料金四、八〇〇円を支出したから必要経費として控除されるべきであると主張するがこれを認むべき資料は何もない。

三、以上のとおり、被告の更正処分(昭和三二年分については東京国税局長の審査決定により維持された分)中、昭和三二、三五両年分については、雑所得の点(両年分)も農業所得(昭和三二年分)の点もその金額の認定において何ら原告主張のような違法はないが、昭和三三年分については、雑所得額金六二万二、五〇〇円のうち金五一万八、七五〇円を超ゆる部分、昭和三四年分については、雑所得額金二四万一、一三五円のうち二〇万六、一三五円を超える部分は違法として取消すべく、またこれに対応する課税所得の部分、所得税の部分および過少申告加算税の部分も違法としてこれを取消すべきである。よつて原告の本訴請求は以上の範囲内でこれを正当として認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法九二条を適用して全部原告の負担とする。

(裁判官 大島斐雄 田中弘 東條宏)

(別紙一、二省略)

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